一升瓶の中の海月

気分で更新される思考の投函口

hidden reAson

 

ごく稀にタバコを吸う

ひとつの句切れをつけるために

 

「タバコは体に害がある」なんて声高に叫ばれていたのはいつからだろうか。

当時の自分はおそらく中学生で、確かに同級生で吸っている奴がいたのは覚えている。

 

仲の良い部長や悪ぶったヤンキー達、校舎裏で

「何で吸ってるの?」と彼らに向けた問いの答えは日頃のツッパリとは逆で、違わず

「俺にも分からねえなぁ…」と弱々しい言葉だった。

 

自分はとうに二十歳を超え、会社で苦痛を味わって、気紛れで買ったタバコはアメスピだった。

理由といえば「長持ちするよ」とかその程度、深い理由などこれっぽっちもない。

吸っても美味いも不味いもわからない。体質なのか噎せもせず惰性で紫煙を肺に取り込む。

手元にある火種は正月の焚き上げのようで、神秘的な奥深さを秘めており、

不思議と火が燃ゆる風景にココロを落ち着かせられていた自分がいる。

 

近場の小学校の鐘が時を弁えず周囲に昼の時を知らせる。

ちりちりと焔に輝く火柱を名残惜しく潰し、後始末を付けて帰ろうとしたときに

「プロデューサーさん...?」

あまり聞きたくない声が耳に入った。

どうしたんだ?こんな時間に事務所に来るなんて

「ベランダにプロデューサーさんがいるのが見えたから...」

気まずそうな声で紡いだ言葉を伝えてくる。

そうか

「プロデューサーさんってタバコ吸ってたんだね」

いや普段は吸わないよ

「じゃあ、今日は何で?」

俺にも分かんねえなぁ...

今日吸った理由は色々ある。上手くいかなかったオーディション。

面倒極まりない案件、担当アイドルとの距離感。

 

少なくとも、今分かる必要はないよ

「いつか分かる日が来るのかなぁ...」

そんな風にはさせないからな

「???」

 

手元に数本残った箱を握り潰し、ゴミ箱に投げ捨てる。

まぁそんなことはどうでもいいから。遅いし家まで送るよ

「あんまりよく分からないけど...。ありがと、プロデューサーさん」

「でもタバコは身体に悪いからダメ。もう吸わないでね?」

あぁ、分かったよ

 

ポケットの車の鍵を握り締め、理想のプロデューサーであるために歩み始める。

そんな日々を溜息まじりに憧れるのであった。