一升瓶の中の海月

気分で更新される思考の投函口

無題

 

 

 

空の中、水面の下。

世界は二つに分けられた。

 

 

何事もないいつも通りの帰り道、疲れた足取りで家に着きシャワーを浴びて、何かを思い出しながらベッドの上で寝転んだのが私の最後の記憶だったのを覚えている。

その事実は間違いなく正しい。次第に音が消えて瞼の先を見つめていくだけのそんな一日の終わり。栞を挟んで本を閉じる様な一つの句切れ目と暗転。

少なくとも宇宙人が進行してきたとか、空から女の子が降ってきたりとか、異世界に転生をしたりだとか、そんな突飛な出来事は起こっていないはずだった。

 

目が醒めた時、屋根に倒れていた。

 

何故屋根に倒れていたのかはどうでもいい。問題なのは風景に見覚えがあり、明確に異なっているという一点のみだ。

屋根より下の空間は全て、透明な液体の様なものに覆われていた。海の水位が異様に上がったかの如く、全ては水、いや水かどうかも定かではない何かに浸かっていた。

バーバリウムを彷彿とさせる水面の下に、確かに昨日まで自分が過ごしていた空間があり、物が浮くわけでもなく今まで通りの光景が広がる。しかしそこには人気はなく、よく出来た模型だと称賛したい。

 

見知った/見知らぬ風景は、記憶の剥製と呼ぶに相応しく、空の色だけが本物の様に映った。