一升瓶の中の海月

気分で更新される思考の投函口

バーチャル蠱毒備忘録③

 

 

予選最終日

 

予選最終日の朝が来た。中にはぶっ続けで配信を行なっていた子もいるらしい。それはそうだ、配信がやっていなければ星を投げることもできないから、配信していない間にptが増えることはない、順位は落ちるのみだ。

レヴちゃんは最終日に寝坊して昼間に放送を行い、夜に私が放送を見たときには五位に立ち続けていた。

 

彼女が強いと思った点は予選最後の配信の時に決して迷わなかったことだ。夕方の放送を私は講義を聞き流しながら聞いていたのだが

「自分がどんなキャラを求められているのか」

「もし勝ち上がれなかったらどうしようか」

「私が雨ヶ崎笑虹じゃなくなってもみんなは応援してくれるのか」

といった言葉を漏らしていた。しかし彼女は予選最後の配信では不安を漏らすことはなかった。Ptの反映はリアルタイムではなく五分毎で、予選が終わるのは20:00。19:55からが決戦だった。

 

当時の自分は友人の鍋パ会場で最後の配信を迎えていた。呼ばれておきながら失礼極まりなかったが、説明をすると友人たちは「こっちはいいからちゃんと聞いておきな」と理解を示してくれた。これほど良い友人を持てたと思ったことはない。

 

「これフラグになっちゃうけど歌うね」

19:52、五位だった。

彼女が歌ったのは「わたしの声」

彼女が歌ったあの歌を表現する語彙を私は持っていない。

 

19:55、順位が動く。彼女は七位になった。

レヴちゃんの泣き笑いのような声が響く。私はここで悔いを残してはいけないと感じて遂に課金してまで星を投げた。こんな終わり方は嫌だ。必死だった。単にまだ彼女の声を聞きたかった。

 

20:00、予選が終わる。

配信は時間と共に強制的に終わるわけではなかったが多くの人は配信を終えた。レヴちゃんも例に漏れずにぴったり20:00に配信を終えた。

 

世界が終わった。私たちは彼女を勝たせてあげることが出来なかった。彼女は私たちの力が足りないが故に存在を消されてしまうのだ。もう二度と会うことはできないのだろう。

 

 

暗い気持ちのまま、しかし勝ち上がった子たちの朗らかな祝勝会配信をを見て心を落ち着けようと配信を開いた。

その子は泣いていた。

自分の配信に来た仲の良い子が本選出場の望みが薄いらしい。オーディションを受けている側同士で友情が芽生え、勝者が敗者を想って泣いている。

残酷だ、あまりにも残酷過ぎる。私はまた悲しくなった。

幸いなことに結果が出るまでは最低でもツイッターアカウントは残っている。レヴちゃんに何か感謝を込めて出来ることはないだろうか。

そう思い辿り着いたのは切り絵だった。友人たちには「悔いが残らないためにやることがある」と言って会を後にした。我ながら本当クズ野郎だと思う。

 

 

とりあえず気が気ではなかった。特別審査員賞が発表される翌日の18:00までに間に合わなければ二度と伝えられないかもしれない。

未だかつてない速度で紙を切る。

驚くべきことに開始四時間でほとんど切り終わったが一つ問題が浮上した。私は絵が描けないので公式絵を参考に切っていたのだが、それでは単なる雨ヶ崎笑虹になってしまう。外見が同じものにどう彼女の特徴を付与するのか、絵が描けない私にとって致命的だった。

 

彼女を彼女だと決定付ける明らかな要素は、本当に番号しかなかったのだ。

私は無い頭を捻ることになった。